南海トラフ中央部における微動空白域を囲む微動の複雑な相互作用・線状配列・周期性



要旨

 スロー地震は沈み込み帯プレート境界において巨大地震発生域の周辺で起こる強い揺れを伴わない断層すべり現象です。様々な規模で発生する一連のスロー地震の中で最も規模の小さい地震は微動と呼ばれ、その活動を把握することは背景に存在するスロースリップ(※1)やプレート境界の摩擦特性を知る手掛かりとして重要です。南海トラフ沈み込み帯はスロー地震活動の活発な沈み込み帯ですが、中央部の紀伊水道付近においてスロー地震の空白域が存在することが知られています。本研究ではこの空白域を取り囲む微動の活動を詳細に調べました。その結果、空白域を挟んで四国東部の微動と紀伊半島西部の微動が時間的に相互作用して発生していたことがわかりました(図)。このことは空白域においてこれまで検知されて来なかったスロースリップが発生していたことを示唆しています。また、これらの微動の活動度はより浅部側に発生する長期的スロースリップにも影響を受けていることがわかりました。震源分布の解析からは微動が沈み込みの方向に沿って線状に配列しており、その方向が空白域を挟んで四国と紀伊半島で異なっていることがわかりました。このことはフィリピン海プレートの沈み込み方向が過去に急変したことや現在のプレート形状と対応しています。さらに、周期性の解析からは微動活動の周期性の空間分布にはっきりとした境界があり、この境界が地下のマントルウェッジ(※2)やフィリピン海プレートの折れ曲がり位置と整合的であることがわかりました。
 本研究の成果は、プレート境界のすべり収支に影響を与えるスロースリップの存在やスロー地震と地下構造との関係を明らかにし、沈み込み帯の地震をモデル化する上で重要な基礎データとなります。


.微動の分布 (a) 微動の震源分布。点が個々の微動の震源を表し、緯度によって色分けされています。十字はHi-net観測点、三角は臨時観測点を表しています。(b) 2015年10月から2019年9月の4年間に発生した微動の時空間プロット。経度方向に見た微動の震源位置の時間変化を表しています。色は緯度を表していて、(a)と対応しています。空白域を挟んで相互作用する微動活動をピンクでハイライトしており、このタイミングで空白域にスロースリップが発生していたことを示唆しています。

学術雑誌名など発表した媒体の情報

雑誌情報: Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 128(3), e2022JB025373 (2023)
タイトル: Complex interaction, striations, and periodicity of deep tremor surrounding a tremor gap in the central Nankai Subduction zone, Japan.
著者:   Kazuaki Ohta, Katsuhiko Shiomi, and Takanori Matsuzawa
DOI番号: https://doi.org/10.1029/2022JB025373

備考

本研究はJSPS科研費20K14582、21H05206の助成を受けたものです。解析には、防災科研Hi-net、東京大学地震研究所ならびに文部科学省の「南海トラフ地震調査研究プロジェクト」で設置した臨時機動観測点で得られた地震波形データを用いました。

用語の説明

※1 スロースリップ
 断層がゆっくりと滑る現象。数日間に渡って発生する短期的スロースリップと数ヶ月から数年に渡って発生する長期的スロースリップがある。地震計では観測することができず、GNSSなどの測地観測によって捉えることができる。スロー地震の一種。

※2 マントルウェッジ
 沈み込む海洋プレートと直上の大陸プレートに挟まれたマントル領域。