巨大地震のための即時震源パラメータ解析システム(AQUA) の改良



要旨

 即時震源パラメータ解析システムAccurate and QUick Analysis System for Source Parameters (AQUA)では、地震波の長周期成分を解析することでM7程度までの地震の位置、規模、および断層タイプを高精度に自動決定してきましたが、観測機器と処理プログラムの制約のため2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)については適切に解析を行うことができませんでした。そこで、以下の改良を行うことで、解析可能な規模の上限をM9程度まで拡張しました。これまで、防災科学技術研究所広帯域地震観測網(F-net)の広帯域地震計(※1)による観測データを処理してきましたが、東北地方太平洋沖地震では、ほぼすべての観測点で波形が飽和し正確なデータが得られなかったことから、広帯域地震計より大振幅側に観測レンジを有するF-net速度型強震計(※2)による観測データを処理に導入しました。また、地震の規模に応じて断層破壊の継続時間が増加することから、M8以上の地震に適した解析パラメータを導入し、さらに初期震源が過小評価された場合の解析更新回数の上限値を上げました。改良されたAQUAにより東北地方太平洋沖地震の観測データを模擬解析したところ、初動到達から431秒後に、東北日本沖に低角逆断層型でM8.6の結果が得られると推定されました(図)。また、改良をリアルタイム処理に導入後、最近の4つの顕著な地震(M7.0-7.9)についても、自動的に適切に処理されました。AQUAの処理性能を評価したところ、気象庁震度6弱以上の地震およびM7以上の地震について、2016年熊本地震およびその最大前震の直後に多数の地震がほぼ同時に発生した期間をのぞいて、決定率は100%となりました。水平位置を固定した場合としない場合の解析では、ほぼすべての地震が、初動到達後、それぞれ100-250秒および100-600秒の間に決定されました。このシステムは津波警報や初期の被害推定に役立つ情報を提供可能であり、防災上有用であると考えられます。

改良後のAQUAによる東北地方太平洋沖地震の再解析結果
.改良後のAQUAによる東北地方太平洋沖地震の再解析結果。上部に推定されたパラメータおよび発震機構解を示します。下部に、観測点ごとにF-net速度型強震計による観測波形(黒線)および推定されたパラメータから計算される理論波形(赤破線)を示します。Variance Reduction (Var.Red., V.R.)は観測波形と理論波形の一致度を示し、100%に近いほど波形の再現性が高く信頼性が高いことを表します。あわせて、観測点ごとの震央距離(delta)、方位角(azimuth)、最大振幅(Max. Amp)、および観測点ごとのV.R.を示します。

学術雑誌名など発表した媒体の情報

雑誌情報: IEEE Systems Journal, 14, 3, 3451-3462 (2020)
タイトル: An Improved Rapid-Source Parameter Determination System (AQUA) for Giant Earthquakes
著者:   Hisanori Kimura, Takeshi Kimura, Youichi Asano, Takashi Kunugi, and Shin Aoi
DOI番号: https://doi.org/10.1109/JSYST.2020.2983430

備考

AQUAによるリアルタイムの自動処理結果は、防災科学技術研究所 高感度地震観測網(Hi-net)のWEBサイトにおける「■AQUAシステム震源速報」にて公開されます。
  https://www.hinet.bosai.go.jp/

また、AQUAの概要について、以下のページでもご覧いただけます。
  https://www.hinet.bosai.go.jp/AQUA/aqua_exp.php

用語の説明

※1 広帯域地震計
地震による地面の速い振動から、非常にゆっくりとした振動まで、広い周波数範囲にわたって地震動を記録できる地震計です。振子の動きを電気的に制御することで見かけ上の固有周期を100秒程度以上までのばし、観測可能な周波数範囲を広げる方式を採用しています。防災科学技術研究所広帯域地震観測網(F-net)では、温度変化や気圧変化の影響を避けるため、横坑の奥に設置されています。

※2 速度型強震計
広帯域地震計と同様に広い周波数範囲にわたって地震動を記録できますが、広帯域地震計より大振幅側に観測レンジを有する地震計です。大振幅の地震動を記録できるよう設計・調整されているため、ノイズレベルは広帯域地震計より高く、小さな地震動は正確に記録できません。F-netでは、広帯域地震計とともに横坑の奥に設置されています。